『犬ヶ島』レビュー;日本&海外キャスト紹介から作者の狙いまで徹底解説!

いざ、犬が島へ!?

5月25日の日本公開に先駆けて、ロンドンで観てきました!

話題作かつ問題作でもある、ウェス・アンダーソンの新作映画『犬が島』(いぬがしま)。日本での公開に先駆けてロンドンで観られたので、一足先にレビューしたいと思います。

注;あらすじのネタバレはないですが、シーンの説明などはあります。

犬ヶ島クイック解説

 

『犬ヶ島』はアメリカのウェス・アンダーソン監督による2018年公開の映画作品です。ストップモーション・アニメーションと言われる、人形などの被写体を少しずつ動かしながら1コマ1コマ撮影して作り上げる手法が使われています。この手法は『ウォレスとグルミット』やティム・バートン監督の『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』などが有名ですね。

アンダーソン監督は2009年にもこのスタイルで『ファンタスティックMr. FOX』を作成しました。ロアルド・ダールの有名な児童文学を、癖のあるシニカルな雰囲気の人形で表現したオリジナリティの高い映画に仕上げて高評価を得ています。また、彼の実写作品で有名なものには『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』や『グランド・ブダペスト・ホテル』があります。

豪華すぎる日米キャスト!聞き逃したくないなら事前予習は必須

『犬ヶ島』のキャストは、アンダーソン作品にお馴染みの俳優を始め、これでもかというくらい豪華な顔ぶれです。しかし、私は事前にあまりキャストについて予習しなかったので、鑑賞中はさっぱりどれが誰の声なのか分からなかったです…(´・ω・`)。登場人物&登場犬の数も多いですし。

そこで、復習がてらメインキャストをまとめました。これから観に行く方は、ぜひ予習に使ってください!

【日本人キャスト】

渡辺謙;筆頭執刀医 どのキャラクターか全然わからなかったのが、アメリカ映画での日本人役として不動の地位を確立したこの方。お医者さんの話すシーンはあまりなかったはずなので、気をつけていないと見落として(聞き落として)しまいそうです。

野田洋次郎;ニュースキャスター RADWIMPSの野田さんは、日本のニュースキャスターの声を演じています。日本人キャスト代表として、ベルリン映画祭へも参加されたそうです。

オノ・ヨーコ;科学者助手ヨーコ・オノ 一番分かりやすかったのがこの方です。何故なら助手さんのおさげの飾りに「O」と「Y」と入っていたので、一目瞭然だったから(^^)。

オノヨーコ

他にも夏木マリが、ちょい役ながら味のあるおばさんの声を演じていたり、若手俳優の村上虹郎が出ていたりと、意外な面々の声が聞けます。

【アメリカ人キャスト】

ビル・マーレイ;ボス(ドラゴンズのユニフォームを着た犬) 『ゴーストバスターズ』のようなどたばたコメディから『ブロークン・フラワーズ』のような難し目のストーリーもさらっとこなす、言わずと知れた名俳優です。そんなにセリフは多くなかったので、ボスが話す時は「ビルだ!」と集中して聞いてください。

ビル・マーレイ

ビル・マーレイと言えばこれ!

ジェフ・ゴールドブラム;デューク 『ジュラシックパーク』や『インディペンデンス・デイ』など大作に多く出ているジェフ。デュークは白とグレーの犬です。

スカーレット・ヨハンソン;ナツメグ ナツメグは芸達者な美犬です。ビル・マーレイと共演した「ロスト・イン・トランスレーション」では可愛らしい姿だったスカーレットも、最近は『アベンジャーズ』のブラックウィドウの姿が板についていますよね。

フランシス・マクドーマンド;通訳ネルソン 『スリー・ビルボード』で2度目のアカデミー主演女優賞を受賞した実力派女優。ちなみに夫はコーエン兄弟のジョエル・コーエンです。

グレタ・ガーウィグ;トレーシー・ウォーカー わたあめみたいな頭がユニークな留学生、トレーシーの声を当てているグレタは、2017年の映画『レディ・バード』の監督です。この方、女優さんでもあったんですね…!

この他にもエドワード・ノートン、ハーヴェイ・カイテル、ティルダ・スウィントンなど大物が出演しています。

日本人的には大問題!?犬ヶ島はどう観るべきか

アニメ作品と聞いて、気楽に観られるもの・子ども向けの作品と思う人もいるかもしれません。しかし、『犬ヶ島』は内容や映像がポリティカル・コレクトネス的に問題があるのでは?と、公開前から物議を醸している作品です。

何故なら舞台は「Megasaki市」(当然、長崎市が連想されます)で、きのこ雲が登場する場面もあります。また、主人公の少年の名前である「アタリ」は、一昔前に海外で流行ったアメリカのゲームメーカーの名前ですが、日本語だけに欧米では漠然と日本の会社のようなイメージを持っている人も多かったもの。微妙に「スシ・ゲイシャ」的な、適当な日本解釈が感じられる名前です。さらに、ぽっちゃり系の人が和太鼓を演奏するシーンや、近代的な飛行服を着たアタリの足元が何故か’下駄’といった「変な日本のイメージ」が随所に登場する点も、気に障る人はいるでしょう。実際、海外評論家の中には「日本人に対して失礼だ!」と低評価を下す人も多くいます。「これ、日本である必要ないよね?」と断じている声も聞きました。

ウェス・アンダーソンの狙いは?(個人的解釈&感想です!)

個人的にも、予告の段階では微妙な心持ちになりました。「映画を観たら、日本を馬鹿にされたと感じて嫌な気持ちになるかもしれないな…」と思ったのですが、あのアンダーソン監督が、意味もなく一昔前の変なカルチャーギャップ的イメージを押し出しているはずがないという期待もありました。さらに、ビル・マーレイとスカーレット・ヨハンソンという「ロスト・イン・トランスレーション」コンビが出ているからには、日本に悪意を持って作られた映画であるはずがない…!そう確信して観たのですが、結果としては…

非常に面白かった!です。

冒頭から、まず映像に引き込まれました。有名な北斎の版画や神社など、ステレオタイプなイメージを使いながらも非常にカラフルで美しいのです。しかもテンポ良くどんどん映像が変わるので、「今の場面、もうちょっとゆっくり観たい!」というシーンが多くありました。DVDになったら、静止画像にしてじっくり観たいものです。

さらに、日本語のセリフや文字が多いのに驚きました。普通、日本が舞台でもアメリカ映画では皆が英語を話していて、ほんの少し日本語が混ざるくらい(しかも片言)ということが多いものですが、人間=ほとんど日本人が普通に日本語を喋っています。通訳や英語テロップは入ることもあり、入らないこともありという、全く欧米人に媚びない設定です。通常、海外で映画を観ると、周りは笑っていても自分はジョークが分からなかったり聞き取れなかったりして寂しいことがよくありますが、今回ばかりは「館内で自分だけが笑っている」という、普段と真逆の状況で愉快でした。

ちなみに、作中の犬は日本の犬なのに何故か英語を喋っていますが、そのために犬と人間は言葉が通じないという関係が成立しています。ついでに、犬達が「キング」や「スポッツ」「チーフ」など英語名なところが現実を映していて、日本人としてはニヤリとしてしまうポイントです。

前述した「微妙な日本の表現」は確かにありますが、ストーリーが進むうちにこれらは日本蔑視というより、むしろ「この程度にしか日本を理解していない欧米人への皮肉」なのではないかと思うようになりました。だって、今どきこんな日本文化の解釈の仕方をしているなら、よほど異文化に興味がないか、無視している排他的なタイプか、はたまた無教養な人でしょう。そんな人達に向けて、異文化を理解する努力をすべきとアンダーソン監督が皮肉を言っている気がしました。

加えて、犬を排除するということについても、異質な者を取り除くことで安心感を得たいという、排他的な志向を非難していると思えます。つまりアンダーソン監督は、欧米人と日本人、人間と犬という2つの関係性を通して、「異文化・異質なものへの無理解や迫害へのアイロニー」を表現しているのではないでしょうか。

他にも、きっと観る人によってさまざまな解釈ができる作品だと思います。ただのアニメではない、深い内容のある映画で、元からのアンダーソン監督のファンの人にとっても満足がいく作品なのではないでしょうか。

『犬が島』は賛否両論ながら、観て損なし!

いざ、犬が島へ!?

いざ、犬が島へ!?

個人的な感想ですが、総じて『犬ヶ島』は面白くて魅力のある作品だと思いました。しかし、この作品での日本(そして長崎)の扱われ方に、不快感を覚える人もいると思います。それは至極まともな意見なので、不快に感じたことをSNSなどでどんどん声に出してもらったら良いのではないのでしょうか。そして国内外で議論が高まれば、かえって日本への理解も深まるかもしれません。

素直にアート映画として楽しみたい方にとっても、『犬が島』は必見です。髪の毛など細部にまでこだわった人形の造形や、独特の空気感のある情景など、思わず見入ってしまいます。ぜひ、アンダーソン作品ならではの、美しい映像を堪能してください!