アキ・カウリスマキによる、ハートウォーミング・ムービー
『ル・アーブルの靴磨き』(現代;LE HAVRE)は2011年公開の映画です。
同年のカンヌ映画祭でFIPRESCI賞(国際批評家連盟賞)を受賞しました。
舞台はル・アーブルというフランス北西部の港町。そのため、全編でフランス語が話されています。
監督は名匠アキ・カウリスマキ(Aki Kaurismaki)。
主演は、監督とよくタッグを組んでいる仏人俳優アンドレ・ウィルムです。
【予告編の動画はこちら!】
アキ・カウリスマキ監督って?
まずは、今までカウリスマキに縁がなかった人、久しく彼の作品を見ていなくて忘れちゃってた人(←私です…)のために、さくっと解説してみます!
彼(名前がアキさんなので、女性を連想しがちですが男性です!)はフィンランド出身の映画監督。お兄さんのミカ・カウリスマキも監督やプロデューサーなどをしているという、映画人兄弟です。
社会の底辺にいる人々を題材にした作品が特徴。ユーモアやウィット、皮肉を効かせた語り口で人生の機微を描き出す手法は、唯一無二とも言える秀悦さです。
【代表作】
『パラダイスの夕暮れ』1986年
『レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ』1989年(日本で有名になり始めたのは、この頃でしょうか?)
『マッチ工場の少女』1990年
『希望のかなた』2016年 ベルリン国際映画祭の銀熊賞(監督賞)を受賞
他にも多数の映画を作ってきたカウリスマキですが、『希望のかなた』を最後に引退を表明したそうです。
【あらすじをざっくり解説!】※基本ネタバレなしです
大事な部分はネタバレしないように気をつけていますが、心配な方は次の項目まで飛ばしてください。
港町ル・アーブルで靴磨きとして働く年配の男性、マルセル・マルクス(アンドレ・ウィルム)。
不安定な仕事で、稼ぎ場所を見つけるのにも苦労することもあるけれど、ささやかな家で待つ妻(カティ・オウティネン)を大事にし、支えています。
近所の人に「ツケ伝票が長〜くなってるわよ!」などと文句を言われつつも、平和に仲良く暮らしていました。
ある日、港のコンテナの中からアフリカ系の難民が大勢発見されます。
そのうちの一人の少年は、摘発のスキを縫って逃げ出したものの、大々的に「お尋ね者」として報道されてしまいます。
ニュースを目にしたマルセルは、ひょんなことからその少年を発見し、食べ物をあげるなどして支援します。
同じ頃、体の不調を感じていた妻は病院に搬送され、そのまま入院することに。
病状はかなり深刻でしたが、妻はマルセルには内緒にしてほしいと医師に頼み込みます。
入れ替わりのように家へやってきた少年を、マルセルと隣人たちが匿います。
しかし、家に隠れているだけでなく働きたいと思った少年は、靴磨きの練習をしたり、マルセルの愛犬・ライカ(可愛い名犬です!)と共に冒険したりと、忙しく過ごします。
少年の家族がイギリスにいることを知ったマルセルは、何とか少年が海を渡るのを助けてやりたいと動きますが、怖そうなインスペクターにも目をつけられ、先行きは前途多難です。
妻の病状も悪くなる一方で、ついに…??
世界はシビア!移民問題に揺れるカレーの実情
マルセルが少年の家族を探して、カレーへ赴くシーンがあります。
(確かカレーだったと思うのですが…。間違ってたらすみません(汗)
そこで移民の人に会い、話を聞こうとしたところ、「ごはん食べる?」と聞かれて「いや、良いです」と断るマルセル。
ところが次のシーンでは仲良く座って食事していて…と、マルセルの人柄や監督のユーモアが表れていて、ほっこりします(^^)。
しかし、カレーの難民の実情はほっこりとは程遠いものです。ついでなので、カレーのキャンプの話を書きたいと思います。
カレー(Calais)にはドーバー海峡につながる海底トンネルがあるため、大陸からイギリスを目指す移民の人達が多いことで知られています。
シリア難民が急増した次期は1万人とも言われ、ジャングルと呼ばれるほど巨大なキャンプを作っていました。
たびたび当局に撤去されるものの、収容や送還を恐れる人々が逃げては戻りを繰り返すため、また同じような状況に戻ってしまっていたそう。映画の中でもその場面がありました。
もちろん、そんな環境が安全な訳はなく、各国のボランティアや援助団体が頑張っていたものの、子どもを含む大勢の人たちが危険で不衛生な状況で暮らしていたのです。
シリア難民が急増した時はさらに大変な状況だったようです。
その頃のニュース記事を見つけましたので、興味のある方はどうぞ。
参考記事 https://www.bbc.com/japanese/37784371 (←イギリスの活動家や団体の話が出ているため、ちょっとイギリス側が善行しているような印象ですが、英政府のシリア難民受け入れ数はEU諸国に比べてひどいものでした。こんな感じで!)
キャンプは2016年に大々的に撤去されましたが、いまだ1,000人以上の難民の人たちが周辺の森や橋の下などで寝起きしているようです。
恥ずかしながら、私も最近の状況がどうなっているのかさっぱり知りませんでした…。
『カレー・ジャングル〜あれから3年』(記事は英語)という2019年の記事を見つけたので、リンクを貼らさせていただきます。
優しい人が、優しくいられる世界を。
映画に話に戻ります(脱線大王な私…^^;)!
この映画で感動する一番のポイントは、マルセルたちがごく当たり前のように、難民の少年を助けるところです。
大人が、「たった一人で困っている子どもを保護し、食事と安全な環境を与える」という至極まっとうなことを、自然にやってのけます。
命からがら逃げてきた少年を当局に引き渡すなどとは、ツユほども考えません!
カウリスマキは、ごく普通の市民が示す勇気と実行力、そして優しさを、声高に主張することなく、さらっと描き出しています。
そこが何とも良いのですよ〜!
また少年の、ひねず、こびず、真っ直ぐに人を見つめる瞳が素晴らしいです。
大人たちの言動を試すかのような、見透かすかのような強い瞳。
難民に対して、隣人に対して、困っている人に対して、もっと優しい世界を作ってくれよ、と言っているようです。
そして、そんな優しい世界には、ちゃんと奇跡が起こるということも…!
胸が膨らむ、優しいラストシーンまで目が離せない!
ラストは、マルセルの家の前庭の木に咲いた花が映し出されます。
ネタバレになっちゃうので詳しいことは言えませんが、マルセルを褒め、祝福するかのように咲いている白い花が、非常に印象的です。
自分もいつか、ココロの中に咲かせたいと思う、そんな花でした。
ぜひ、『ル・アーブルの靴磨き』を観て、優しい気持ちに満たされてください!